原文作成:08/10/24
シナリオ作成対象のシステム:SW2.0


>>最終的なストーリー概要
自由都市同盟の一角、エイラスの街で薬品への毒物混入事件が発生する。
犯人は蛮族であり、飲用者を発狂へと導くその毒物を用いて破壊工作を展開し
街の混乱を狙ったものであった。
PCの所属する店の冒険者にも被害者が発生し、店のマスターは店のメンツのため、
街の平穏のためにPC達に事件の真相解明を頼む。
PC達の目的は発狂事件の原因(毒物混入)を探り、犯人
(蛮族と、利用されていた人間)を挙げるのが主なストーリー展開軸である。
>>

以下、どのようにしてこのシナリオを作成していったかの覚え書き。
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■前提条件の確認
・総プレイ時間はせいぜい3時間強である・・・(p1)
・プレイヤー層のメインターゲットは1〜2回生であり、
 基本的なシティアドベンチャー物を楽しんでもらう・・・(p2)
・参加者はシステムを知らなくてもよいとする・・・(p3)
・特に主役のPCは定めない。均等に主人公をしてもらうものとする・・・(p4)

前提条件からいくつかの制約が自動的に決まる。
・p2より、シナリオはシティ物で確定。
・p1、p3より、キャラクター作成に満足な時間は裂けないから
 ほぼ初期作成である必要がある。システム情報を見てみると
 経験点を500や1000点追加すると、「戦闘以外何もできないAテーブル3レベル」
 戦闘力が他より突出しているキャラ(フェンサー一本伸ばしや精霊使い3レベル-ウィンドカッターなど)
 (いずれもp4に反する)が発生する恐れがあると判明したので完全初期条件を選択。
・p1より、状況次第ではイベントを飛ばしても話全体が成り立たなくてはならない。
 人間関係や情をベースにしたシナリオではこの条件を満たすのは困難なので、
 途中のイベントをカットしたり、追加ヒントを出しやすい「既に発生済みの事件を追う」
 というシナリオラインを想定。各イベントがブロック構造をしているとベスト。

■シナリオ構想スタート
本来は「こんなシチュエーションをやりたい」や、
「こういう事件/アイテム/モンスターをモチーフにしよう」というのが先に来るべきだが、
この時点でGMの脳裏にはこれといったアイデアがなかった。
仕方がないのでギミック面から煮詰めることにする。

・p2-4を満たすために重要なことはシステムを熟知した人間だけが活躍したり、
 逆によく知らない人間が活躍できないキャラを作成することを予防することである。
 初期作成で作れる前者のキャラクターはフェンサー3/スカウトorセージ1辺りが相当する。

 分かりやすい対抗策としては金属鎧を着た敵を出す、辺りか。・・・(A)

・経験点の都合(端数が出る)及び事前説明でセージやスカウトなどシティ物で役立つ技能は全員取って
 くれるであろうから、残りで問題になるのは後者、作ったキャラデータが微妙で戦闘で
 活躍できないケースの予防。端的なのは低レベル低命中の悲しいキャラである。
 どうしよう。ああ、バーサーク(命中アップ、回避低下)させればいいか。
 命中率を引き上げると回避特化型が割を食う事になるが、回避特化は必然的に冒険者レベルが高い
 であろうからそこまで問題ではない。
 でも一応配慮して1レベルくらいの奴がバーサークすれば丁度いい。考えてみたら(A)とマッチする。
 というか、バーサーク(発狂)をシナリオのネタにしてしまおう。・・・(B)

・(B)を出すためには当然原因が必要である。
 とりあえずルールブック中に何か使えそうなものがないか探してみる。
 検索完了
 魔術、アイテム、モンスターにそれっぽいのはなかった。ではオリジナルで何か出すしかない
 発狂の原因と言えば催眠術、薬物、魔術、魔物・・・
 制約から考えると既に発生した事件として扱えて、かつ情報収集などが容易な薬物系が妥当か。
 というわけで「飲んだ人物を発狂させる薬物が登場する」・・・(C)
 ことにしよう。これで一番大本のプロットは生まれた。


・(C)を煮詰めなければならない。飲んで即発狂では犯人特定が極端に簡単or難しくなってしまう
 から、遅効性もしくは蓄積毒の類にしよう。怨恨やら愛憎のもつれとか下手に
 人間関係複雑にすると制約に引っかかるのでターゲットは不特定多数。
 不特定多数に出回る薬物となれば「最終的に破滅してしまう麻薬」辺りがオーソドックスだが、
 初期作成レベルで麻薬のヤマをこなすのは少し荷が重いしヒネリが足りない。
 無差別テロ系にしよう。
 麻薬的要素がないとするとシノギにならないからこんなことをするのは蛮族か敵対国家だけ、
 後者はレベル的に無理だから「蛮族が破壊工作のため毒物を流した」で確定だな・・・(D)

・(D)を考察する。当然だが、頭の悪い蛮族を黒幕にはできない。さっきデータ見た中で該当するのは・・・
 メデューサ(レベル4)辺りがいい感じか。レベルも適正だし、嫌らしい能力持ちだが
 魔法を使うわけでも即死事故が起こるわけでもない。ラミアの首飾りとセットで運用すれば
 ちょうどいい具合なので採用。こんな時じゃないと出番ないs(ry・・・(E)
 (A)の金属鎧君はとりあえず犠牲者でPCに襲い掛かる役か。

・黒幕はいいとして、メインである(C)についても詰めなければならない。
 麻薬系ではなく、「犠牲者は知らずに飲んだ」がアクセントかつミスリード部分になるので
 その辺りからもキチンと考える必要がある。どうしよう。
 (ふと、部屋に転がっている栄養ドリンクの空瓶が目に止まる)
 ・・・ヒーリングポーションがある世界なんだからスタミナポーションくらいあったっていいよな。
 3時間寝ればノーペナルティのPCと違って一般人はそんなに丈夫にできてないし。
 しかも、多少値が張るであろうスタミナポーションなんて飲むのは冒険者や兵士、
 忙しい商人などが主だろうから破壊工作のターゲットとしても合致する。
 そういえばモンスターデータの中にドロップ品が強壮剤の材料になるという魔物がいたな。
 2レベルのGセンティピード、レベルも適切だし背景設定の小ネタ付き。
 ついでに3レベルGスコーピオンもドロップ品が薬品になるらしいからあわせて採用しよう。
 「日頃飲んでいるスタミナポーションにいつの間にか毒が混ぜられていた。
  スタミナポーションの材料は魔物のドロップ品」という設定を採用。・・・(F)
 お、そういえばメデューサ自身も毒をドロップするな。ならば調べれば「蛇の毒などが混入され
 ていることが分かる。そのせいでおかしくなっているようだ」というヒントを出せると共に
 バレにくい伏線に使える。

・(F)から連鎖的にシナリオ骨子が浮かぶ。ドロップ品が材料である以上狩人がいるはず。
 その狩人(レンジャー)が日頃スタミナポーションに加工して卸しているが、その狩人が
 蛮族の手先に取って代わられれば小売店がフィルターになって飲用者自身は何も気づかない。
 (もちろん低レベルである彼らは飲む際の危険感知判定に失敗するわけである)
 そして毒が回り、(A)君がPC達に襲い掛かって事件は展開する・・・(G)
 

■シナリオアウトラインの完成(クリアできるルートが確立しているか検証する)
(A)〜(G)から一連の流れは完成。後は、細かい設定を詰めると共に矛盾なくそれらが
繋がるかを検証しなければならない。

・簡易フローチャートを考える
今回は制約にある通り、いざとなったらイベントを切らなければならないから、
連続したイベントではなく各イベントが並立でも成立するようにしなければならない。
基本的に情報収集についてのイベントなので、頭と中継ぎ、終わりの3点だけ必須として
残りはブロック化して考える。(イベントについて書き始めるとキリがないのでタイトルだけ)
ブロック内にはさらにいくつかのイベントを含むが、どう転がすかは前後の繋がりから柔軟に。
登場するNPCについては行動理念を全てシミュレートするが今回は詳細割愛。

 OPイベント(必須)
   ↓
(A)が生き残ったケース⇔(A)が死亡してしまったケース
           ↓
衛兵隊についての情報収集⇔(A)の自宅捜索⇔(A)の所持品を疑う
           ↑↓
ポーションをギルドなどに持ち込んで調査⇔ポーションの出所を探る⇔被害者の共通点を探る
⇔酒場の娼婦について聞き込む(ミスリード)⇔麻薬関連と睨んで調査(ミスリード)
           ↑↓
市街の薬局にポーションを卸していたレンジャーが代理人(当然成りすまし)を立てていたことを知る(必須)
           ↑↓
レンジャーの知人を探す⇔怪しい代理人について調査する⇔薬局そのものを疑う(ミスリード)
           ↑↓
怪しい代理人のヤサを裏町で探す⇔レンジャーの行方の予想を友人から得る
      ↓
レンジャーの仕事場、怪しい代理人の行く先などから郊外の遺跡を割り出す
      ↓
戦闘イベント(省略可能)
      ↓
   クライマックス(必須)

シナリオクリアが可能であることをとりあえず確認。

■進行の保険をかける
TRPGであるから、必然的にPLが想定外の行動を取ったり、想定外に苦戦する場合がある。
ミスリードに完全にはまって視野狭窄に陥る場合もままあり得る。
そこでヒントとなる保険をいくつか用意する。
・第三、第四の被害者イベント(時間経過またはリアル時間の切迫で発生)
・協力的なNPCの存在をいくつかピックアップしておく(冒険者の宿のマスター、衛兵隊の知人、
 神殿の神官、裏町の情報屋など)
・黒幕(ラミアの首飾りを使用したメデューサ)の活動情報イベント

■バグらないように保険をかける
PCがシナリオの展開を助ける方向で突き抜けた場合は問題ない(素直に発想を称え、
時間が余るなら予備の戦闘イベントを回せばよいだけだから)。
が、シナリオの根底を覆されるような穴があった場合は重大な事故が起こるのでその点を見直す。
言い換えると理論武装を用意しておく。

・PCがNPCの力でボスを襲撃したらどうする?
舞台が市街の場合常に考えるべき項目である。「遺跡にテロリストがいるよ!」と通報されたら
お仕舞いである。そこで理論武装を考える。
「(A)は同じ冒険者仲間である。冒険者が暴走したなどとあっては店のメンツに関わる。
(この世界の冒険者の店は信用で食っている存在である。)
自分たちの手で事件を解決せよ(官憲などを利用してボスを制圧してもクリアは可能だが
その場合半成功とみなす)。」
これをOPイベントに仕込めばOK。
同様にして、他の冒険者はたまたま手一杯としておく。

・外的要因による強行突破を阻止する
↑と本質的には同じであるが、舞台背景に様々な物が存在するシティアドベンチャーでは常に
思考の片隅にはおいておくべき項目である。今回は単純に悪用されにくいよう、
小さな街かつたいしたレベルの存在がいない街(人口3000人)であるエイラスを選択した。
ここならばよっぽどのことがない限りPCの当事者性を維持できる。

■小ネタを仕込む
余裕があればネタを仕込む。特に掴みが重要。イベント進行のロジックにはあまり関係がないが、
彩りを添えておくとモチベーションも変わる。
ネタ例
・冒険者の宿の名前はジャイアントバスター、由来は主人(元冒険者)が
 「オーガをマウントポジションでボコボコにした」と豪語していたから。あながち嘘でもない
・毒や薬の素材の伏線(PLがGMと共有し得る世界設定)
・冒険者(A)の人柄
など。
単なるギャグやジョークを仕込むのもありだが、その辺りは自信があれば入れるくらいで。

■必要なデータを揃える
敵データやNPCデータのチェック。きちんと用意しておくと慌てずに済む。
人数やPCの強さが確定されていない場合は条件分岐や複数パターン用意しておくと完璧。
場合によっては適当でもいいが、公平性に欠けるとPLが感じてしまうと失敗なのでほどほどに

■作成したシナリオがちゃんと前提を満たしているかチェック
省略・追加ヒントが簡単に出せるので時間調節が楽・・・p1クリア
適度にヒネリを入れたシティ、かつ救済も用意済み・・・p2クリア
ガチデータ/弱データにも配慮済み。敵データも複数・・・p3クリア
事前に必ずセージ/レンジャー/スカウトの重要性を説明し、
シティアドベンチャーであることを伝える。経験点的にもOK・・・p4クリア

■脳内でテストプレイ
最低一回は「PLの視点から」回るかどうかシミュレートしてみる。情報の欠落や繋ぎに無理を
感じるようなら立ち返ってイベントを追加したりヒントを再考してみる。

■実践
あとは実際に回すのみ。
日頃から色々考えておくと、「本当に想定外の事態」に遭遇しても対処できる確率は上がる。
あとは経験あるのみ。